2019年6月、37歳の誕生日を迎えたばかりのヨースケ@HOMEは突然この世を去った。背が高くて、あれだけ笑い声が大きくて、そこにいたら紛れもなくうるさくて、目が離せなくなるヨースケがもういない。このどうしようもない喪失感は、彼が親しくしていたミュージシャンたちにも襲いかかった。
痛手を負いつつも、彼らはヨースケのために、そして寂しさを拭えない自分たちのために、イベント開催を決定した。が、1周忌となる2020年はコロナ禍の緊急事態宣言のためにやむなく中止。2021年も世の中の状況はさして変わらないが、配信という形で実現の日を迎えた。
その名も『絶対に泣いてはいけない!ヨースケ@HOME ツイットーライヴ vol.1』。
首謀者はKANである。タイトルに由来してか、前日から開演前まで、彼のアカウントでは配信に関する告知やリハーサル風景など、多数のツイートがあった。その中で書かれていた「栄冠は誰の手に!?」が少々気になる。
20時、いよいよスタート。と思ったら、出演者全員でKANのライブ物販「ダジャレかるた」で遊んでいる。始まりますよ〜、え、もう? みたいなコントがまずあったのだが、ここで使われているかるたの絵はすべてヨースケの奥さまが描いたもの。ただのコントではなかった。そしてこの日は、ただの泣いてはいけないライブではなかったのだ。
1曲目は、ヨースケの「花に水を」、続いてカブレルズの「Chu Chu Chu」を出演者全員でセッション。カブレルズとは、KAN、ジョンB、菅原 龍平、ヨースケで結成したバンド。ヨースケのパートを秦 基博が歌う。
会場にはトークするエリアが設けられていて、ミュージシャンはそれぞれの席に着く。まずはKAN、PES、キヨサクが並び、彼らはヨースケのお葬式の際に弔辞を読んだ3人だそうで、「弔辞トリオでぇ〜す!」と挨拶。どうなんだろ。不謹慎ではないのか。いや、ヨースケならきっと「最高っす〜!」と膝を叩いて笑っていただろう。そう思うとなおさら、ほろりと……あ、泣いてはいけないんだった。
出演者それぞれ、ヨースケとの関わりを語りながら自己紹介。公私ともに深く関わったKAN、「かわいい弟みたいな存在」とキヨサク、イベントで一緒にバンドを組んだ吉田 佳史、ヨースケが「陽」なら自分は「陰」で対照的だけどなぜか気が合ったという菅原 龍平、突然電話がかかってきては家に遊びに来られていたジョンB、ヨースケの音楽に一目置く根本 要、実は地元の中学の先輩後輩だった秦 基博、20年来のつきあいのPES、……それにしても豪華な顔ぶれだ。
『宮内陽輔(ヨースケの本名)写真館』と題して、懐かしいスナップを見ながら思い出話に花が咲く。酔っ払って道路に寝転んでいたり、札幌のバッティングセンターで上半身裸になっていたり、エピソードに事欠かない中、ヨースケを評し、「あんなに歌と本人のキャラクターが一体な人はいない」と語る根本要の言葉が印象的だった。
次の音楽パートでは、キヨサクと秦 基博による「涙そうそう」、KANの「バイバイバイ」と続き、あれ、泣かそうとしてる? 泣かないよ、と思っていたら、根本 要の「木蘭の涙」……。これはズルい、本当にズルい。確信犯・KAN曰く「試練の3曲」だそうだ。
秦 基博は「ひまわりの約束」を。“とにかく明るい”ヨースケだったから、ひまわりのイメージとも重なって、この曲も聴きようによっては姿がちらついてしまう。しかし続くジョンBの「所在ない」が視聴者の笑顔を取り戻してくれた。せつないけれどどこかユーモラス、吉田 佳史のコーラスも一役買っている。
ところで、KANが少年時代に憧れたのはミュージシャンと、クイズ番組の司会者だったという。その夢が今夜叶えられた。PESとともに仕切るクイズコーナー、『爆笑!ヨスーケ伝説』がいきなり始まった(但し、ボードの文字がヨスーケになっているのをみんなでツッコむこと数分間……)。「妻」「母」「妹」から出題されたヨースケのマニアックなクイズに、ミュージシャンが想像力を駆使して、時にボケながら回答していく。
たとえば「ヨースケは奥さんにいくつもの歌のプレゼントをしています。初めて贈った曲のタイトルは?」(答え:ラッタッタ)、「骨折で入院した小学2年生のヨースケ、やっと退院の日を迎えたが病室に姿がない。病院内のどこで何をしていたでしょう?」(答え:病院の廊下で車椅子でウイリーしていた)など。KANがツイートで予告していた“栄冠”はキヨサクの手に渡った。商品は冒頭でも使っていた「ダジャレかるた」。
さて、音楽の時間に戻る。PES、DJ NON、ヨースケの3人で組んだBravo!の「そういうLIFE」を。これからアルバムを作ろうと話していたところだったそうだ。演奏は全員で、ラップパートにはKANが参加した。
ジャンルも活動の場も違うミュージシャンたちが集まり、入念なリハーサル、トークやクイズコーナーを経て、柔らかい空気の中でチームワークが固まっていく様子が見て取れる。ヨースケが繋いだサークルに温かい光が降り注いでいるかのようだ。
ヨースケ作「それでもボクは生きていく」のラップはPES、歌は菅原が担当。タイトルからして悲しくなってしまうが、意外かつ秀逸なカップリングで、じっくりと聴かせた。
ヨースケが晩年、全力を注いで挑んでいたのが映画『小さな恋のうた』の劇伴制作と、バンド初心者の俳優たちに楽器を教えることだった。キヨサクによる映画説明のあと、撮影中にヨースケとも交流があった世良 公則が映像で登場、ともにセッションしたという「STAND BY ME」を艶やかな声で弾き語り、最後は天を指差した。
映画の題材となったMONGOL800の名曲「小さな恋のうた」を、キヨサクがウクレレで歌う。スピード感を伴ったバンドサウンドとは打って変わって、シンプルゆえに声の迫力で圧倒される。「小さな恋の思いは届く/小さな島のヨースケのもとへ」と、歌詞が変わっていた。
最後に、出演者それぞれがメッセージを。
「(ヨースケの)おかあさん、観てる〜?」と手を振る菅原 龍平。
キヨサクは「まだまだやり足りない感じがプンプンしてる。ヨースケが繋げてくれた縁を大事に、楽しんでいきたいと思います」と語る。
ヨースケから受け継いだ謎の楽器を掲げて、PESは「ヨースケ、これ使い方どうするの?」と問いかけつつ、「ヨースケ、よかったね」と、そこにいるかのように話しかける。
「ヨースケは明るい子やったなぁ(笑)。最近の曲は陰りができていたけど、もっと明るさを出したらいいのに思ってた」と、忌憚のないジョンB。
「ヨースケくんもここにいて、一緒にやっているような感覚でした。また次も参加したい」と、吉田 佳史。
今日はヨースケの音楽を知らずに配信を観ている人もいるだろうと想定し、「コロナ禍で思い悩んでいる気持ちにも、ヨースケの音楽は寄り添ってくれます。もしかしたらゴッホのように、彼は死んでから名を残す人間かもしれない」と、根本 要。
秦 基博は「こんなに楽しい機会をもらえてヨースケに感謝してますが……」と切り出すも引っかかることがあるという。PESや菅原がギターを譲り受けているようだが自分は何ももらっていない、でもサーフボードはいらない、と冗談めかした。
KANは、このシリーズは毎年続けていきたいと宣言。今回は参加できなかった人たちも含め、ヨースケの友達ミュージシャンの輪をさらに広げていきたい意向だ。「そのうち1人2人と死んでいって、追悼する相手が増えていくと思う(笑)」と壮大なビジョンを示唆した。
ヨースケのメジャーデビュー曲「パノラマ」は、この日の最後にふさわしいセッションを生み出した。出演者すべてがヨースケの先輩たちではあるけれど、みんなヨースケの明るさに、素直さに、やさしさに影響を受けて、今、ここで歌っている。お別れではなく、永遠に交わし続ける約束のように、悲しくて幸せな気持ちになった。
終演し、エンドロールでヨースケが歌う「おかえりバトン」が流れる。いい曲だ。たくさんお酒を飲んだあと名残惜しそうにバイバイを言うときの声にも似た、小さくてかけがえのない思いが溢れてきて、ヨースケの歌は今も呼吸し続けていることを最後に知る。こみあげる。ありがとう、ヨースケ@HOME。今夜はただの泣いてはいけないライブではなかった。そう、泣いてもよかったのだ。
文:森田 恭子(LuckyRaccoon)
写真:SARU(SARUYA AYUMI)
ヨースケ@HOME オフィシャルサイト http://yosukeathome.jp
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